ミハイル・バリシニコフ ホワイトナイツ白夜

ミハイル・バリシニコフ ホワイトナイツ 白夜

 

先日バリシニコフの記事を書いていて

ホワイトナイツをふっと思いだしました。

監督が純粋にダンス映画が撮りたかったというわりに

内容は東西冷戦時代を強く感じさせるものがあります。

この作品も映画

日本では1986年公開です。

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映画冒頭にジャンコクトーが台本を書き、ローランプティの振付けた

若者と死が劇中劇として披露されます。

ソビエト連邦に残っていたらおそらく踊ることはなかった作品。

若い女/死神役はフィレンツェフォーレ

射るような目はこの役にぴったりです。

この当時だと20世紀バレエ団かな

モーリス・ベジャールのとこにいたダンサーです。

5分ほどですが、見応えあります。

 

ソビエトからアメリカに亡命した世界的ダンサー

ニコライ・ロドチェンコ(ミハイル・バリシニコフ)が

ロンドンから東京公演に向かっている飛行機が

エンジントラブルのためシベリアに緊急着陸

不本意にもソビエト連邦に帰ってきてしまう所から物語は始まります。

 

 亡命者である彼は重大な国家に対する犯罪者です。

機内でパスポートをトイレに破り捨て素性を隠そうとしますが

KGBに見抜かれ身柄を拘束されてしまいます。

 

 そんな彼をKGBは処刑もせずに

バレエダンサーとして復帰させプロパガンダに利用しようとする。

ニコライが脱走しないよう監視役を命じられるのが

アメリカから亡命してきたタップダンサーの

レイモンド(グレゴリー・ハインズ)でした。

 

 レイモンドもまたソ連への亡命当初はプロパガンダに利用され

マスコミにも登場していたけれど、時間の経過とともに

利用価値が薄れ妻ターリャ(イザベラ・ロッセリーニ)と

シベリアで不遇の日々を過ごしています。

 

 ニコライの名門キーロフ(現マリインスキー)への復帰はレイモンドにとっても

冷や飯食いから脱するチャンスでもありました。

 

 シベリアからレニングラード(現サンクトペテルブルグ)へ向かい

キーロフ劇場の舞台に立つため準備を始めるが

互いに反発しあい最初はうまくいかないけれど

徐々に打ち解け理解しあうようになっていく。

 

 その後ニコライの元恋人ガリーナ・イバノワ(ヘレン・ミレン)や

アメリカ領事館の協力のもと逃亡を計画しついには実行に移すのだけれど・・

 

この映画に思う事

1980年代半ばの映画でこの頃まだソビエト連邦が崩壊するなんて

私は思ってもいませんでした。

日本公開の頃ゴルバチョフペレストロイカを提唱し始め

チェルノブイリ原子力発電所爆発事故が起きるのですが

情報は遅く、原子炉が暴走という言葉が繰り返されて

だからいったいどんな事故なんだ?

悲惨な状況は分かる。原因とかそんなのは?

知りたいことはなかなか報道されなかった。

撮影当時はまだソビエト連邦の情報は格段に少なかったと思います。

 

二人の亡命者を軸に物語は描かれていくのですが

シベリア暮らしのレイモンドの住まいなど

コンクリートの壁にペンキを塗ってあるだけ

セットとは言え簡素で

アメリカの豊かさを暗に表現しているように見えました。

 

ダンスシーンは見事です。

冒頭の若者と死から

レイモンドが観客の前で踊るポーギーとベス

語り草の11ピルエットはお金かけてやってます

しかも革靴のまんまきっちりまわってる。

鬼のようなウォーミングアップシーンもありますよ。

 

圧巻は逃亡決行日の二人のダンスシーン

バレエのバリシニコフとタップのハインズの融合

ハインズ亡き今、貴重な映像です。

 

エンディングに流れる

ライオネル・リッチーのセイユー・セイミーも大ヒットしました。

 

この映画を撮るに当たり

ハインズとロッセリーニは事前にレニングラードに入り

下見をして臨んだそうですが

自身がソビエト連邦からの亡命者であるバリシニコフは

撮影時にはすでにアメリカンバレエシアターでの成功や

映画、愛と喝采の日々アカデミー賞にノミネートされるなどして名声を得ており

ソビエト連邦から恩赦を出されていたにも関わらずソビエト入りはしていません。

この時にもまだ残してきた親族や自身の命の危険を感じていたのか

当然入国するわけにはいかなかったようです。

映画はイギリスやフィンランドでセットを組んで撮影されたそうです。

 

kankichi9konde.hatenablog.com

 ヘレン・ミレンはイギリスの女優さんのイメージ強いですが

父親がロシア帝国時代の貴族階級の出。

ロシア革命の時に亡命をしています。

エリザベスなんか演じた時の高貴さは

本人の努力とともに出自からも来ているのでしょう。

 

ソビエト連邦崩壊から30年近くが経ち

今のロシアはかつてのような統制下にありません。

冒頭の若者と死は亡命当時のバリシニコフを代弁するような作品です。

強い思い入れがあるようで

アメリカンバレエシアター入団後すぐリバイバル上演しています。

 

彼は政治亡命となっていますが

クラッシックバレエのみならずもっと自由に

連邦ではかなわない自分の望む作品を踊りたい。

芸術家として、表現者として。

映画を見ながら、連邦時代はこんなにも不自由だったんだな

と感じますが、この作品ぜひ一度見てほしいと思います。